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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)986号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人板垣勝男、辯護人西元禎および同齋藤淳一の各上告趣意書(齋藤辯護人の分は訂正追加書とも二通)は、末尾に添えた別紙記載の通りである。

(六)齋藤辯護人上告趣意書および追加上告趣意書による論旨第一點は、原審第五回公判期日(昭和二四年二月五日)には辯護人海野普吉が不出頭であったにもかゝわらず、原審は同公判期日において指定した第六回公判期日(昭和二四年二月一七日)につき同辯護人に適法な召喚手續(舊刑訴三二〇條、八四條、九九條)をとらなかった、從って同辯護人は右第六回公判期日には出頭しなかったのであるが、原審は同期日は相辯護人位田亮次の立會の下に公判を開廷して辯論を終結した、これは明かに舊刑事訴訟法第四一〇條第一一號にいわゆる「不法に辯護權を制限した」場合に當り、原判決は破棄をまぬかれない、というのである。

判例をさかのぼると、大審院時代に、第一回公判期日につき辯護人に對し適法な召喚手續がとられている以上、同公判期日は右辯護人が出頭しなくとも特別の事情のない限り、裁判所が公判廷において次回期日を指定告知すれば足り、不出頭の辯護人に對し重ねて舊刑事訴訟法第三二〇條の召喚手續をする必要はなく、第二回以後の公判期日についても順次同様である、との判例がある(大正一三年(れ)第一一九二號同年四月一六日大審院刑事第五部判決。昭和九年(れ)第一二四六號同年一一月二〇日大審院刑事第四部判決)。

今日においてもこの判例を變更すべき理由はないと思われる。

ところがこゝに、昭和二三年(れ)第四六號同年四月六日最高裁判所第三小法廷判決という當法廷の判例があって、辯護人の一人が公判期日に不出頭であったとき、その次の期日をその辯護人に通知しなかったのは「不當に辯護權を制限した」ものであると、斷定している。すなわち大審院時代の判例をくつがえしたもののように見えるが、その事実が前二回の場合および今回の場合とちがうのである。すなわち右の事件においては、辯護人の一人が缺席した公判期日において裁判所は「次回公判期日は追而指定する旨」を告知しながらその次回の期日を右の辯護人に通知しなかったのであるから、當法廷がこれを違法と判斷したのは當然である。

本件の事情はこれと異なり、被告人と相辯護人出頭の法廷において次回の期日が指定されたのである。こういう場合にも実際上の取扱としては當日不出頭の辯護人にも次回期日の召喚状を適宜送達するのが普通であるがたまたまそれをしなかったからとて、法律の要求する手續を怠ったものとは言われない。適法に召喚を受けた公判期日に何ら納得すべき理由なくして缺席した辯護人は、同公判期日における審理の進行状況、次回期日指定の有無等については、自ら進んでこれを確めるだけの努力をすべきこと、辯護人としてはむしろ當然の事である。殊に本件のごとく被告人および相辯護人が公判期日に出頭して次の期日の指定の告知を聞いた場合には、被告人または相辯護人において次回公判期日までに缺席辯護人と連絡を取って公判の準備を整うべきであり、もしやむを得ない事情によって再び出頭し得ない場合には、延期の申請その他適當な手段がありそうなことである。さて記録によれば、第六回公判期日につき海野辯護人に對して召喚手續がとられなかったことは、論旨の通りであるが原審は右期日以外の公判期日にはすべて適法な召喚状を同辯護人に送達している。そして海野辯護人は原審公判に一回も出頭していないのであって、しかもその不出頭の理由については記録上何らの認むべきものがない。その状態においてたまたま一回の召喚状不送達を自己の利益に援用するのはいかがなものであらうか。要するに原審が「不法に辯護權の行使を制限した」とは言い得ないのであって、論旨は理由がない。

以上の各論旨いずれも上告の理由にならぬから、舊刑事訴訟法第四四六條によって主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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